ゴールドショック~黄金革命~

ショートショート集(スキマ小説)

ある科学者が『賢者の粒子』を開発した。それは、どんな金属でも純金に変えられる夢のような技術。しかし驚くべきことに彼は、その特許を取らずに技術を世界へと公開した。「利益ではなく、人類の発展のために」と。

技術は瞬く間に広がり、金は誰にとっても身近なものになった。街を歩けば金のアクセサリーは当たり前。日用品、建築資材に至るまで世界は金であふれかえった。もはや黄金の城すら現実的となる。

しかし、その喜びは長く続かない。

アフリカや南米、金の採掘を基盤としていた国々は、歴史的な金の暴落により経済危機に直面した。そしてそれは世界にも波及する。金鉱山は次々と閉鎖され、職を失った労働者たちの不満はやがて暴動へと発展していった。

このままでは世界経済そのものも崩壊しかねない──

各国の首脳達は動き出し、すぐに『国際金保全連盟』 が発足された。

『天然の金こそが本物の金である』

連盟は大々的なキャンペーンを展開した。「賢者の粒子による金は歴史を持たない人工物だ」「天然の金には地球が生み出した希少性がある」と繰り返す。

このメッセージは、投資家や高級ブランド業界に強く響いた。ダイヤモンドが単なる炭素の塊ではなく、その希少性や歴史によって価値を持つように、金もまた歴史的背景がその価値を生みだすのだ。金が日常にあふれだした背景もあり、人々の心も揺れ動く。

こうして『ナチュラルゴールド認証制度』が導入され、天然の金には特別な証明書が与えられた。高級ブランドは即座に反応し、旧金のみを使用した「天然のゴールドリング」「プレミアムゴールドバングル」などが発表された。

旧金市場は再び活性化した。反面、全く同じ物質構造をもつはずの新金は、なぜか「まがい物」扱いされるようになっていった──

やがて、市場は二極化する。日用品としての新金と、ステータスとしての旧金──

人々は改めて問い直す。「価値とは、単なる物質ではなく歴史とその希少性によって生まれるものなのか?」連盟は旧金のプレミアム化に成功し、再び経済は安定を取り戻していった。

──そして、賢者の粒子を生み出した科学者は、遠くからその変化を見つめ呟いた。

「……違いなどあるまいよ」と。

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