アリスは、巣の中で一番の働き者として知られていた。
昼も夜も休まず、誰よりも多くの仕事をこなす。
そんな彼女がそこまで頑張る理由はただ一つ。
たくさん働いていればみんなの役に立てる。それに、そのこと自体が自分の唯一の存在価値だ。──そう信じていたからだ。
けれど、日々働き続けるうちに、体には少しずつ疲れが溜まっていった。
ある日、大きな石にぶつかって、運んでいた食料を落としてしまう。
慌てて来た道を戻り、遅れを取り戻すために何度も道を往復した。
そのたびに、疲れは増していく──
ついに、また食料を落としてしまった。
「どうして、こんなにミスばかり……」
つぶやきながら、アリスは再び走り出そうとした。
そのとき、巣で最も年長のアリ、アントスが静かに現れた。
「アリス、君は本当に頑張り屋だね。でも、少しだけ立ち止まって考えてごらん」
アントスの声は優しく、穏やかだった。
アリスは疲れた目で彼を見上げる。
「でも、私が頑張らないとみんなに迷惑がかかる気がして……」
アントスはうなずき、穏やかに答えた。
「その気持ちは素晴らしい。でも、無理をしすぎて倒れてしまったらどうなる? 君自身も、みんなも困ることになるだろう?」
アリスは少しだけ考え、そして言った。
「でもやっぱり、頑張ることでしか、私の価値はないと思うんです……」
アントスはにっこり笑った。
「僕も若いころ君と同じだったよ。働きすぎては失敗ばかりしていた。でも、大切なのは『ひとりで頑張る』ことじゃない。みんなで協力することなんだ」
アリスはその言葉を胸に刻み、少しだけペースを落としてみることにした。
けれど、不安は拭えなかった。
──私が休んでいる間に何か起きたらどうしよう。
──巣が回らなくなったらどうしよう。
結局、アリスはまた働き続けてしまった。
「やっぱり、休んでる暇なんてない!」
──数日後。
運んでいた食料を落としたアリスは、立ち上がろうとしても体が動かなかった。ふらついた足でなんとか歩こうとするも──そのまま、倒れてしまう。
「アリス、大丈夫か!?」
「無理しすぎだよ!」
仲間たちが駆け寄る中、アントスが静かに言った。
「アリス、君の頑張りは素晴らしい。でもね、倒れてしまったら……それこそ本当に迷惑をかけてしまうんだ」
アリスはようやく自分の限界を認めた。
そして、初めて「ちゃんと休もう」と、心に決めた。
だが、不安はまだ消えない。
──私が休んで巣が止まったらどうしよう。
ところが、彼女の心配をよそに、巣は問題なく回っていた。
仲間たちは協力し合い、食料もきちんと運ばれている。
「えっ……どうして……?」
アリスが驚いているとアントスがそっと微笑んだ。
「見てごらん。君がいなくても巣はちゃんと動いてる。みんなで力を合わせているからだよ」
その言葉にアリスは深く息をついた。
そうしてようやく気づいたのだ。
──ずっと自分だけで背負っていたつもりだったけど、
──最初からみんなで支え合っていたんだ。
「休むことって、ただの休憩じゃないんですね。仲間を信じて任せることなんだ」
アントスはうれしそうにうなずいた。
仲間を信じることの大切さを知ったアリスは、肩の力を抜いて働けるようになった。その後のアリ生は、あたたかく、穏やかで、充実したものになったという。
関連記事・派生記事リンク

サクッと読める!ショートショート集!スキマ時間にどうぞ(●ˇ∀ˇ●)