「てーへんだ、てーへんだ!!」血相を変えた鬼吉が、叫び声を上げながら鬼太郎(おにたろう)の元へ駆け込んできた。
「どうした、鬼吉?」鬼太郎は、その剣幕に驚きながらも落ち着いて問い返す。
「てーへんだ鬼太郎! 桃太郎って野郎が、鬼退治だ!って、こっちに向かってきてるらしいんでい!」
「桃太郎? 誰だそれは?」
「さあ、詳しくは知んねぇが、噂じゃ桃から生まれたつぅ、わけの分からん奴らしい」
「……桃から?」鬼太郎の顔が険しくなる。鬼ヶ島の鬼たちは確かに見た目は恐ろしい。しかし、ずっと平穏に暮らしていた。——悪事など一切身に覚えもない。なのに、いきなりの鬼退治とはいったいどういう了見だ!?
「そもそも桃から生まれたってどういうことだよ? ありえねえだろ!? そんなバケモンになぜ退治されなきゃなんねぇ!?」
「それがよ、見た目は人間そのもんらしい。しかも、べらぼうにイケメンだって話だ!」
「なに!? バケモンのくせに人間の見た目だって? オプションにイケメンまでついてくるとか……そんなこと許されねぇよ!!」
鬼太郎はだんだんと怒りがこみ上げ、拳を強く握りしめた。
「こうなったら目に物を見せてやるぞ! 返り討ちにして二度と鬼退治なんて言葉が出ないようにしてやる!! 他の仲間にもすぐ知らせろ!!」
鬼吉は「へい!」と力強く言うと他の仲間達の元へと走って行った。
——そしてすぐにその時は訪れた。
颯爽と桃太郎が、犬、猿、キジを従え、鬼ヶ島へ堂々と乗り込んできた。鬼たちはそれぞれが武器をもち迎え撃つ構えを見せる。
「来たな、桃から生まれたとかいう謎の男!!」
——しかし、桃太郎一行はあまりにも強すぎた。鬼吉は猿に軽々と押さえつけられ、鬼太郎も犬とキジの連携に翻弄される。仲間たちは次々と倒れ、鬼ヶ島はあっという間に制圧されてしまった。
「ま、待て! なぜ俺たちを襲うんだ!?」
鬼太郎は悔しさに歯ぎしりしながら桃太郎に叫んだ。
「お前たちが村を襲うからだ!」桃太郎は正義感に満ちた声で言い放った。
「はあ!? 俺たちはそんなこと一度もした覚えはねぇぞ!?」鬼太郎は怒りをあらわにする。
「何もしてねーのにいきなり襲いかかってきたのはそっちの方だ! 見た目が怖いからって決めつけるのはやめてもらおうか!!」
桃太郎の剣がピタリと止まった。
「……でも、村の人たちはお前たちを恐れていた」
「怖ぇからって襲っていい理由にはなんねぇよ! そもそもよ、オイラたちが村を襲ったっつう証拠はどこにあんだよ? 証拠だせってんだ、証拠!!」鬼吉が必死に訴えた。
桃太郎はハッとした表情で言葉に詰まる。——だが、鬼太郎が更に続けた——
「言っとくが、今お前たちが奪おうとしているその宝はな、俺たちのご先祖様が、万が一の時のためと残してくれたものだからな!」
桃太郎は宝にかけた手を止めた。
「……これは村の人たちのものじゃなかったのか?」
「当たり前だ! 俺たちは人間なんて襲ってねー! それは、ご先祖様の魂なんだ!!」
鬼太郎は肩で荒い息をしながらなおも訴え続けた。
「第一、お前こそ桃から生まれたとか聞いたが、見た目が人間なだけでバケモンじゃねーか!? それなのに、俺たちは生まれつき怖いってだけで悪者扱いされるのか!? イケメンだったらバケモンでも許されるのかよ!?」
桃太郎は神妙な面持ちで考え込む——すると、
「……確かに、お前たちの言う通りかもしれないな」
その言葉に鬼吉がおずおずと口を開く。
「……なぁ、ひとつ大目に見てくれやしねぇかい……?」
桃太郎はゆっくりと頷いた。
「そうだな……俺は鬼を退治しろと言われてここまで来た。だが、お前たちの話を聞いて今は考えを改めるべきだと素直に思っている……」
鬼太郎は安堵の息を漏らすとすぐ、「よし! それじゃあ、酒でも酌み交わしながらゆっくりと話し合おうじゃないか!」
すると、桃太郎は複雑な顔を浮かべ、戸惑いながらもそれを受け入れた——
「鬼太郎、か……なんか俺と名前が似てるな」
「……そうだな」鬼太郎は苦笑いを浮かべた。だが、
「もしかしたら、俺たちタローズとして仲良くなれるかもしれねぇぞ?」
鬼太郎がふいに無邪気な笑顔を見せる。その様子につられ、桃太郎も思わず笑みをこぼす——
こうして鬼退治は思いがけない和解へと繋がり、鬼と桃太郎一行の盛大な宴が始まったのだった。
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