>異世界中毒~さぁ準備は整った!

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『異世界物語』に今さらどハマり中の俺。ラノベ、漫画、アニメを漁るうちに、なんだか自分も異世界に召喚される気がしてきた。

──いや、分かってる。これはもう病気だ。「異世界中毒」とでも名付けよう。

そんなバカなことを考えているうちにも、「もしかして今、召喚されるんじゃ……?」という謎の気配を感じる。しかし、暫く待っても何も起きない。

──おかしい。いや、もしかして、ただ待ってるだけじゃダメなのか?  何か準備をすれば召喚フラグが立つのでは?

俺は無駄に培った異世界知識を総動員し考えた。そして導き出した結論は──「装備を整えれば、異世界に行ける!」だ。

まずは黒いローブをネットでポチる。異世界といえば黒いローブ。たぶん鉄則。ついでにそれっぽい指輪も購入。

武器も必要だ。本物の剣はすぐ買えないのでとりあえず竹刀を買っておこう。毎日振れば「剣を渡されても違和感なく構えられる男」になれるはず。

食料も大事だ。異世界の飯は運次第だから、カロリーメイトとカップラーメンをカバンに詰める。水は──まぁ、重いから魔法でどうにかする方向で──

「よし、完璧!」

部屋の隅には、異世界召喚待ちのバックパックが鎮座。黒ローブ、竹刀、保存食、指輪──いつでも召喚される準備万端!!

俺は天井を見上げ、両手を広げる。

「さあ、勇者召喚の魔法陣よ!  俺を呼べ!」

──数秒待つ。

──何も起こらない。

「……ふむ、やはり魔法陣が必要か?」

急いで紙を取り出し適当な魔法陣を描く。効果は不明だがそれっぽさは重要。さらに、それっぽい呪文を唱えてみる。

「オ・レハコ、コ二、イ・ルゾ!」

──しかし、やはり何も起こらない。

「なるほど、まだ足りないのか……!?」

そこから俺は、夜空に向かって「俺を選べ!」と叫び、満月の下で竹刀を振り回し、駅前の公園で「ギルメン募集中!」と書いたボードを持って座った。しかし、怪しい治癒師からの勧誘を受けた以外、特に進展はない。

──そして、ふと別の可能性に思い至る。

「……死んで転生するパターンもあるよな!?」いや、分かってはいたんだが、死ぬのは怖いから考えない方向性でいたのだ──しかし、

異世界の王道、それは『不慮の事故』からの転生。神様が登場し、チート能力を授かる──まぁ、異世界に行けるなら何でもいいさ!

しかし、言ってるそばから冷や汗がにじむ。やはり死ぬのはイヤだ。

「そうだ、遺書を書いておくか」

机に向かい便箋を広げる。死ぬのはイヤだが準備だけはしておいた方がいい。強制イベントもあるのだから。だが、勘違いしないで欲しい。自○なんか絶対しないから。

遺書
俺がいなくなったら部屋の黒いローブは捨ててください。異世界装備ですが、ここでは怪しいコスプレです。恥ずかしいのでこれを形見にしないで。
竹刀は俺の意思を継ぐものに譲ります。
机の引き出しの魔法陣メモは処分してください。落書きに見えるかもしれませんが、発動したら大変なので早めに処分することをお勧めします。
たぶん異世界で元気にしているので安心してください( •̀ ω •́ )/

「……よし、完璧!」

これでどんなルートでも対応可能だ!

それから一か月後──

部屋の隅には埃をかぶったバックパック。クローゼットにはほぼ未使用の黒ローブ。俺の異世界召喚計画は、進展ゼロ。

「……やはり、素質がないのかな……」

失意の中、俺はまたラノベを開く。そしてふと気づいた。

「……てか、インドア派の俺の場合こっちの方が楽しいんじゃね?」

そう、俺は異世界に行くことばかり考えて現実の楽しさを忘れていたのかもしれない。

「よく考えたら、元の世界に戻りたがるキャラってけっこういるじゃん!? つまり、何もない方が勝ち組って見方も……」

とりあえず、今日はラノベを読みながらカロリーメイトを食べることにしよう。

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