ある日、金太郎はいつものように山の動物たちと相撲をとっていた。
「おいおい、また俺の勝ちかよ! もうちょい強いやついねーの?」
ウサギ、シカ、クマ──次々と倒れていく動物たち。
「金ちゃん、強すぎだよぉ!」
「もうやめて! 動物達のライフはゼロよ!」
そんな中、遠くの山から雷鳴が轟いた。
「お、なんかいい感じのイベントフラグ立ったな?」
金太郎がまさかりを担ぎニヤりと笑う。
すると、雷鳴とともに、山の向こうから何かが転がってきた──
ドドドドド……!
動物たちが戦々恐々と見守る中、金太郎がまさかりを構えた。
「こ、これは……!?」
土煙が晴れると、そこにあったのは巨大な”桃”だった。
「えっ?」
桃はツヤツヤと光りながらゴロンと転がり、金太郎の目の前でピタリと止まる。
「お、おい!……桃?」
ザワザワする動物たち。金太郎も戸惑う。
「まさか……俺、次の桃太郎? 鬼退治のイベント発生しちゃった!?」
「いやいや、それは違うだろ!」と、ウサギがツッコミを入れる。
すると、その桃は突然ビリビリと震えはじめた──
パカッ!!
割れた桃の中からスーツ姿の男性が姿を現す。
「はじめまして。英雄スカウト課の者です」
「英雄スカウト課?」
「はい。金太郎さん、あなたの戦闘力を拝見し、正式に日本昔話界の新ヒーロー候補としてスカウトに参りました!」
「……は?」
「現在、桃太郎さんが鬼ヶ島出張中のため人材不足でしてね。新たな英雄を求めて全国を巡っているんです」
「ちょっと待て! 俺は相撲界の頂点を目指してんだ! 英雄とか興味ねぇ!」
「そこをなんとか! 今なら特典として、伝説のきび団子定期便がついてきます!」
「おい、なんかそれうまそうじゃねぇか?」
「さらに今なら、犬・猿・キジの専属サポートチームもセットで……」
「ちょっと待て、それ完全に桃太郎案件じゃねぇか!!」
「では、契約書にサインを……」
「勝手に話を進めるなあああ!!」
金太郎は、まさかりを振りかざし契約書をぶった斬ろうとする。しかしその瞬間、スーツ男はスマートに桃の中へシュッと戻り──
バフッ!!
桃は再び閉じ、ゴロゴロと転がって消えていった。
残されたのは呆然とする金太郎と動物たち。
「……なんだったんだ? 今の」
「たぶん、そういうイベントだったんじゃね?」
「まあいいや! つーか、まさかり系なんとかの話じゃなかったっけ!?」
「一瞬そんなシーンあったから、タイトル詐欺にはならないよ!! 因みに、イラストはバトルアックスだからちょいグレーかもね!?」
──こうして金太郎は、英雄スカウトの誘惑を振り切り、今日も山の動物たちと相撲を取り続けるのであった。

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