鍋の中の水がじわじわと温度を上げている。
「くっ……もう耐えられない」
「でも、ここを超えたら何かがあるはず……」
僕ら水分子は、熱に揺さぶられながら必死に踏みとどまっていた。衝突は激しさを増し、逃げ場などない。
「このままでは押し潰される…… けど、外に出るのは怖い」
焦燥と恐怖が絡みつく。次第に息苦しくなり、身体の輪郭さえ曖昧になっていった。
──このまま消えてしまうのか?
「嫌だ……けど……」
ボコッ!
その瞬間、僕は決心した。
「……!」
驚くほど軽かった。
未知の恐怖から解き放たれ、気づけば宙に浮いていた。風がやさしく背を押すと、視界がどんどん広がっていく──
「これは……!?」
見下ろすと、鍋の中ではまだ仲間たちが揺れていた。彼らもまた迷っているのかもしれない。
ボコボコボコッ!
勇気を振り絞った者たちが次々と後に続く。恐れと迷いを振り払うように舞い上がった。
「……自由だ!」
それは、恐怖の終わりではなく、新たな世界の始まりだった。
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