恐怖のバレンタイン~ホワイトデーの相場は!?

ショートショート集(スキマ小説)

義理チョコには等倍返しが無難。そう聞いていた僕は、社会人一年目のホワイトデー、無難にクッキーをチョイスした。

しかし二年目、ふとした気まぐれで三倍返しにしてみる。すると予想以上に喜ばれ、社内での評価も上がったような気がした。調子に乗った僕は、翌年には五倍返しに挑戦してみることに──

さすがに女性社員たちも少し遠慮の気配を見せたが、それでも悪い気はしない。──そして、いつしかそれは伝統となった。

気づけば、バレンタインデーが近づくたび女性社員たちはそわそわとし始める。そして、「今年もよろしくお願いします!」と義理チョコが飛び交う。その期待に応えるべく、僕は年々グレードアップしたホワイトデーを演出し続けた。

十年目には「金城さんのホワイトデーは最高!」と噂され、十五年目には、バレンタインの義理チョコがまるで『投資』のように定着してしまった。

そして二十年目──もう戻れない。

もはや五倍返しは当たり前。さらに「昨年はこれくらいでしたね!」と参考資料まで添えられる始末だ。デパートの高級菓子売り場のVIP待遇、特注スイーツの予約。まるでホワイトデーのために生きているかのような錯覚に陥る。

「金城、今年のホワイトデーどうする?」

「いや……今年こそ逃げ切る!」

しかし、机の上にはすでに山積みのチョコレート。添えられたメモにはこう書かれていた。

「今年も楽しみにしています♡」

──恐怖のバレンタインが今年もやってきた。

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